事例を求めすぎると上手くいかない時代になった

地域

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民間企業と違って自治体は自治体間の横のつながりは非常に強いです。
自分の地域で災害が起きたときには、連携している自治体から応援が派遣されます。
応援に派遣された結果、災害が起きていない自治体にも災害時のノウハウが貯まります。
こうやって横の連携で大事なノウハウが共有されていくのが自治体の仕組みです。

■地域おこしも事例共有される自治体

日本中には1700以上の自治体があり、それぞれで地域おこしにチャレンジしてます。
そして、上手くいった事例があるとさまざまな自治体から視察が来るようになります。
また、自治体が上手くいったことを事例集にしてまとめる作業も国や県で行われます。
ニュースなどでも頻繁に取り上げられるようになり、上手くいった事例をマネる自治体もでてきます。
成功事例をマネることで、短期間で成果を出せるようになる、とみんなが考えて事例を参考にします。

道の駅を自治体が作る事業もこうした他の自治体の事例からどんどん増えていきました。
良い事例を積極的にマネることで失敗少なく成果も見込めるということで成功事例が2,3件続くとさらにマネをする自治体が増えて一気に広がっていきます。

■体験やソフト重視の時代に

ハードウェアによってその地域が栄える、というパターンの場合は他の自治体の事例がとても参考になりました。
道の駅のような「これがあれば人が集まる!」というハードウェア事例でいいものが生まれればまた流行ることが予想されます。
ハードウェアでの成功はマネをしやすいので事例研究はとても役立ちます。

ところが、現在では「体験」や「ソフト」の面で上手くいく事例が増えてきました。
ワイナリーなどはその最たるものです。
美味しいワインを作っているところで横に美味しいレストランがあり、宿泊もできる。
ワインだけはなく日本酒でワイナリーのようなことをする地域も徐々にでてきました。
ワイナリー事例はまだまだ民間が中心ですが、そのうち自治体が取り組むことも増えてくると予想されます。
ただし、ワイナリーのような事例は「見た目はマネできそうだけれどマネをするのが難しい」ものとなります。
サービス面が重視されるからです。

サービスはハードウェアと違ってマネが難しいものです。
ワイナリーの例でいうと、単純に美味しいお酒を造っている横に宿泊施設を作ってその地域のお酒が飲める店を準備するだけでは上手くいきません。
お酒と宿泊施設とレストランが連携してそしてその場所の空気感まで作り込んでいるからこそお客さんがファンになってくれるからです。

体験やソフトが重視されるこの時代には「事例」をマネしようとすると、マネをしきれずこぼれてしまう大事なことがたくさんでてきてしまうのです。
民間であればまだ競争の中研ぎ澄まされていきますが、行政中心の動きでマネをすると計画を重視した運営になりサービスの取りこぼしが起きやすくなり、失敗してしまうことが多くなります。

商店街振興の予算なども自治体では毎年のように出て行きますが、それで再生した商店街は数少ないです。
たまに再生した商店街が事例として取り上げられますが、そういった再生した地域ではみんなが「本気」で取り組んでいます。
サービスや体験が多々含まれるビジネスの場合、取り組みの本気具合や取り組むときの小さな工夫の積み重ねで結果が大きく変わります。
だからこそ、事例をマネしようとしてもマネできないのです。

■事例が役に立ちづらい時代に

体験やソフトが中心の時代になってきて、事例が以前ほどは役立たなくなってきています。
ですが、自治体の慣習として「他の自治体はなにをやっているのか」という事例を調べてそこから事業を組み立てる仕組みは当面消えないでしょう。
また、自治体職員が「企画のプロではない」ということもあり独自の工夫をすることができる自治体は数少ないままでいることになります。

こうした中、自治外がCIO(Chief Infomation Officer:最高情報責任者)やCMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)に外部から有識者を引っ張ってくることが増えました。
事例ベースで企画を立てるのではなく、優秀な人が企画を立てることで新たなチャレンジに取り組んだり企画の精度を上げるという取り組みです。
現状、外部有識者を企画を立てるえらい人にすることによって上手くいっているケースは多くありますが、今後は上手くいかないケースが多々でてきます。
というのも、外部有識者を選ぶのは非常に難しいからです。
経歴だけキレイな渡り鳥みたいな人に既に目をつけられてそういった人が入り込むことが増えています。
(こういった経歴だけキレイな渡り鳥みたいな人は民間企業でもなぜか多くいて、そこそこの企業に入り込んでいたりします)
上手くいっているケースの多くはトップが優秀な知り合いを呼んできた、ということが多いからです。
公募にするとどうしても経歴だけキレイな渡り鳥のような人が入って来やすくなりますし、審査をする人は審査が本来の仕事ではないので経歴をみて信用してその人を招き入れてしまうのです。
「外部人材をトップに招き入れる」という事例ももうマネできなくなってきているのです。

■小さな実証事件の中から宝物を見つける時代に

こうして体験やサービスの時代になってきて事例をマネして成功することは極めて難しくなってきています。
それでは今後どうなるのかというと「顧客の方を向いた新しいチャレンジ」を小さく回して大きく育てることが増えてくると予想されます。
スタートアップ界隈ではPoC(Proof of Concept:概念実証)をまわす、という言い方をしています。
最終的なゴールは大きいけれどもその中でコアの部分だけに絞って実装できる範囲だけ実装して実際にやってみる。
やってみた結果上手くいけばさらに範囲を広げ、上手くいかなければ上手くいかない理由を調べてやることを変えていく。
このような取り組みが中心になると考えられます。

「失敗」や「軸足の変更」を前提として真剣に取り組んでいき、その中でやることを決めていく。
あくまでも「地域おこしに繋がる顧客やサービス対象がいるかどうか」で判断をしていく。
というような流れになるでしょう。

こうした取り組みは片手間でやると失敗が続きますし、本気で取り組むと成功の糸口がそのうち見えてきて大きな成功につながります。
スタートアップ界隈でPoCが重視されているのは小さな失敗はもうやってもいいから、とにかく顧客がお金を払ってまで欲しいサービスであるかどうかを何度も確かめて顧客がお金を払って喜ぶようになったらそこで一気に広げていく、ということが成功を掴むのに手っ取り早い、と認識されているからです。
小さい失敗を何度も繰り返してそして本気で取り組むからこそ顧客を掴むまで諦めずに進んでいく。
本気で取り組まなければ学びが生まれないので成功に近づけませんし、のんびりやっても成功しない、のがPoCの特徴です。
とはいえ、成功する方法としてはとても良いやり方なので、事例をマネする時代から「小さく行動を起こす」ことを繰り返す中からその地域にとっての宝物を再発見してそこから地域おこしに成功していく時代になっていくでしょう。