サクセスツーリズムとしてのアニメ聖地巡礼

地域

■アニメ聖地巡礼のなかの成功体験

人は成功すると、何度でも同じことを繰り返したくなります。仕事で成功すると、同じやり方を繰り返しますし、他人にも模倣するよう勧めます。趣味でも同じ。好きになった映画を観に、何度も映画館に足を運ぶ。好物のラーメンを繰り返し食べてしまう。

アニメの舞台となった地域には、同じファンが繰り返し訪れます。リピーターです。月参する人がいれば、毎週、遠方から訪れる人もいます。アニメ聖地巡礼に訪れた地域で新しい交友関係が生まれ、楽しくなる。そんな成功体験のスイッチが入ると、人はリピーターになるのではないか。そんな風に考えています。

逆に、聖地に行っても誰とも知り合わないことは、しばしばあることですし、地域の方に話しかけてもつれなくされることも日常的にあることです。いつも親しい友人ができるわけではありません。そうした場所には「また来月行こう」とはなかなか思えません。縁がなかったと、他の聖地へ向かうでしょう。

聖地で友人や知人ができた人はリピーターになり、とくに誰とも知り合わなかった人は「一見さん」で終わるのではないでしょうか。

■成功体験を生むボランティア活動

アニメ聖地巡礼とボランティア活動の相性の良さに注目が集まっています。お祭りやイベントの手伝いを無償で行うファンの姿は、聖地ではおなじみのものになっています。地域を訪れるアニメファンは地域のために何かをしたいと考える人が多いようです。これも成功体験です。地域で活動をして、地域の人に感謝される。とくに人手が少ない場所では、体力があり、積極的に動いてくれる人間が来てくれることは大助かりです。

アニメファンのボランティア活動の代表格は「清掃活動」です。アニメの舞台となったスポットや自分たちの溜まり場を掃除します。地域によってはこの清掃活動をイベント化しています。イベント化することで、アニメファンが参加しやすくなります。そして、聖地をキレイにすれば達成感が生まれます。もちろん、参加者同士は互いに協力しながら掃除をするわけですから、交流が生まれますし、終了後の飲み会では地域の方から感謝の言葉をもらうこともあるでしょう。

達成感、交流、感謝。この3つがボランティア活動には含まれており、参加者の成功体験となります。自分の好きなアニメ作品の舞台となった地域に貢献したい。その気持ちが満たされます。同じような活動をまたしたいと思うようになるのは自然な流れでしょう。

■同人誌即売会は小さな成功体験の集まり

成功体験といわれて頭に浮かぶのは「お金」にまつわる成功ではないでしょうか。稼ぐ、儲ける。お金の魅力は抗いがたいものです。

アニメ地域おこしにおいても、「お金」は重要な指針です。地域の商店街にアニメ作品のファンが押し寄せ、アニメとのコラボ商品はもちろん、地域の物産品をこぞって買っていく。アニメ地域おこしと聞くと、そんなイメージを思い浮かべるでしょう。それも悪くはないですが、本稿では逆の発想を提案したいと思います。アニメファンに稼いでもらうのです。

同人誌即売会というイベントがあります。代表格は、年2回ビッグサイトで行われているコミックマーケット(通称「コミケ」)です。ただ、コミケが同人誌即売会のすべてではありません。じつは日本全国の各所で、大中小さまざまな同人誌即売会が行われています。私も「アニメ聖地巡礼【本】即売会」という即売会を開催しています。(コロナ禍の今、どのイベントも開催が難しくなっています。はやく、何の心配もなく同人誌即売会が開かれることを願うばかりです)

この同人誌即売会は、出店者とお客さんがおなじ趣味嗜好のもとに集まり、自主制作した本やグッズを売買するところです。アニメやマンガ、ゲームはもちろん、鉄道や旅、コスプレなど、趣味の数だけ、即売会があると思ってください。

アニメの聖地となった地域と同人誌即売会の相性は良いと思っています。前例もあります。『ラブライブ!サンシャイン!!』の静岡県沼津市、『らき☆すた』の埼玉県久喜市鷲宮、『銀魂』に登場する木刀の生産地として知られる洞爺湖。私は参加してはいませんが、『ガールズ&パンツァー』の茨城県大洗町でも同人誌即売会が開かれていたと聞いています。

即売会では、私も自分の本「聖地会議」を売っています。売れると、とても嬉しい(売れないと、とっても悲しい)。会場への交通費や宿泊費を、売上で賄うことができるくらいに売れると、次回の即売会にも参加しようという気持ちになります。さらに経費以上に売れれば、ちょっと美味しいものでも食べて帰ろうかな、と気持ちに変化が生じます。(ものすごく売れる人もいますが、ほとんどは私のように細々と活動をしているのではないでしょうか)

これは、小さな成功です。でも、この小さな成功の積み重ねが集まって即売会というイベントを形成しています。

「あの街で開かれる同人誌即売会は、いつも良い感じで売り上げが立つ」そんな成功体験を重ねてくれる人が増えることは、すなわち地域への来訪者が増えることを意味します。アニメ地域おこしには「アニメファンに稼いでもらう」という視点もあるのです。

■同人誌は作る人の数だけジャンルがあります

同人誌というと、成人向けの2次創作作品を連想する方もいるかと思います。権利処理が曖昧なグレーゾーンにある同人誌です。まあ、そちらはかなり盛況ですが、それだけではないんですよ、と敢えて言わせてください。

私は「聖地会議」という自社出版のシリーズを発行しています。薄い本の形を取っていますが、すべて権利処理を行っています。内容はアニメ聖地巡礼の現場で働くキーマンと私の対談です。対談ですから、完全なオリジナルなシリーズとなります。もちろん、成人向けの要素は一切ない、一般向けです。同人誌即売会には、「聖地会議」のように権利処理をクリアし、オリジナルで一般向けという本もたくさんあります。それこそ、作る人の数だけジャンルがあると思ってください。

脱線しました。アニメ地域おこしでは「同人誌即売会」を活用してみては、という私からの提案でした。

■サクセスツーリズム

成功体験とツーリズムについてお話をしてきました。私はこれを「サクセスツーリズム」と呼んでいます。人は良い思い出のある場所には、また行きたいと考えます。では、アニメ地域おこしにおいて、良い思い出とはなにか。地域の人々やアニメ作品に貢献した思える達成感、同じように地域を訪れたファン同士の交流、地域の人との交流、そして、地域の人々や仲間からの感謝。達成感、交流、感謝の3つをまずあげました。

最後に売り上げです。アニメファンが地域へお金を遣う。その逆もあり得るのではないか、という提案です。アニメファンが地域に赴き、小さな商売をして、売り上げを得る。つまり、小さいながらも経済をまわす。

「サクセスツーリズム」こそがアニメ地域おこしの根っこの部分にあるのではないか、と考える次第です。