アニメ聖地巡礼の「成功」を認識する

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「成功と失敗」の前に考えたいこと

アニメ作品の成功が数字で語られるようになりました。

興行収入はいくら? 動員数は何万人? あの作品より、こちらの作品の方が売れている。

アニメビジネス関係者なら、数字は気になるところでしょう。しかし、アニメファンも同じように数字を口にします。ファンが数字を気にしてどうするんだろう、という思いが僕にはあります。

まわりの誰もその作品に興味がなくても、自分だけが面白いと思っている。自分だけが「なんてステキな作品なんだ」と夢中になっている。むしろこの作品のファンは自分しかいないのではないか。独り占めしているようなその瞬間が一番幸せではありませんか。

ファンは、数字を気にせず楽しめる特権的な立場にいるからファンなのでして、数字の良し悪しを追っていては気楽に楽しめなくなります。

アニメ聖地巡礼も同様です。

経済効果。来訪者数。あの地域より、こっちの地域の方が勝っている。もしくは負けている。

「アニメ聖地巡礼による経済効果は数十億円」という数字が新聞に載れば、自治体や関係者は鼻が高いでしょう。「来訪者数」が増えれば、街に賑わいが生まれ、その効果を域内に知らしめることができるかもしれません。

しかし、ひとりひとりの満足度と数字は別物です。アニメ聖地巡礼に訪れる人数は少なくても、ひとりひとりの胸の内に耳を傾ければ、十分に満たされていることに気付くでしょう。

この作品の舞台になっている地域を熟知している人間は自分だけだ。この地域に何度も来訪しているファンは自分だけだ。この場所の魅力を知っているのは、自分だけだ。

それは大概、勘違いです。でも、勘違いをしている瞬間が楽しいのです。

数字で計る「成功と失敗」は一目瞭然です。

わかりやすい。なぜ、わかりやすいのか。計測できない要素を削ぎ落としているからわかりやすいのです。

情報の中心になることも「成功」

数億、数十億円のアニメ聖地巡礼による経済効果。何万、何十万人のアニメ聖地巡礼にいらっしゃる県外、国外からの来訪者。わかりやすい成功です。

しかし、ご自分の地域にそうした効果が押し寄せたとして、受け止められますか?

多くの方が訪れ、お金を落とす。そのためにはホテルや旅館、レストラン、お土産屋などそれなりの規模感のある商店街が必要です。現地までの足となる鉄道、バス、タクシーなどの交通インフラが必要です。アニメ聖地巡礼の成功は、派手な数字だけではありません。

  • 長期に渡ってリピーターになってくれるアニメファン
  • 権利ビジネスを垣間見せてくれるアニメ製作委員会
  • 無から有を作りだすベテランクリエイターとの繋がり

アニメ聖地巡礼とは、権利ビジネスであり、情報産業そのものです。

作品、世界観、雰囲気、ブランド、噂、コミュニケーションといったもので出来ています。それは農業、工業、商業に対立するものではありません。農業、工業、商業といった従来の産業を、情報産業でミルフィーユのように挟んだり、弁当のノリのように乗せて使用したり、お鍋の出汁のように味のベースとして使います。

情報産業の担い手はふだんは都会にいます。情報は他の情報に吸い寄せられる性格を持ちます。そして、集まれば集まるほど、価値を持ちます。都会こそ情報の集積地であり、揺るがない発信地であり、中心です。

揺るがない、と書きました。しかし、アニメ聖地巡礼のおかげで揺らぎはじめています。その揺らぎは地域がアニメの舞台になることで発生しました。

郊外のとある地域が人々に「聖地」として認識される。「聖地」とは中心です。ふだんからよく見知っている馴染みのある町や村が、ある日、特定のアニメ作品における情報の中心になるのです。

アニメ作品の舞台という、小さいながらも情報の中心になったことを認識する。ふだん出会うことのない人たちが、向こうから私たちの地域にやってくる。都会に偏って集まっている情報産業への扉が、アニメ聖地巡礼によって開放されたのです。

アニメ作品の舞台に選ばれ、中心になったときに、すでに地域は「成功」をしているのです。アニメ聖地巡礼におけるビジネスは、その成功を認識し、組み立てることからはじめます。