アニメ地域おこしにかけられる、呪い

地域
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■「やりすぎない」「あざといことをしない」

アニメで地域を元気にしよう、活性化しようと行動を起こすときに水を差す言葉があります。「やりすぎない」「あざといことをしない」というものです。アニメ聖地巡礼はアニメファンが主体となって行うものだから、地域は余計なことをしてはならない。アニメファンは地域が商売っ気を出すことを嫌っているから、過剰な商品展開をしてはならぬ、というわけです。

こうした言葉は「呪い」です。すべてのアニメ作品は違う内容ですし、すべての地域は違う人が住み、違う歴史、背景を持っています。

アニメ聖地巡礼において何が余計で、何が必要か、そんな判断がつく人間はいませんし、何が過剰で、何が丁度いいのか、正しく測ることをできる人間がいるわけがありません。

「やりすぎない」「あざといことをしない」ことを心掛けて盛り上がった地域があろうとも、その事例をもって日本全国にあるアニメの聖地になった地域すべてに適用できるわけがありません。

呪いとは、信じたい人がかかります。どんな人がかかるのでしょうか。

アニメの聖地になったものの、ちょっと面倒だな、と思っている。アニメ聖地巡礼はよくわからない風潮なので、できれば触れたくない。地域の理解を得ることに手間がかかるため、やらない言い訳を探している。

「アニメ地域おこしは、地域はできるだけ何もせず、ファンに任せるのがいいんだよ」といえば、なんとなく格好がつきます。そう、「やりすぎない」「あざといことをしない」は何もしないことに対する、体裁のいい言い訳になるのです。

■そもそもアニメビジネスは・・・

アニメ聖地巡礼の供給源となっているアニメ業界はやりすぎていないのでしょうか。あざといことをしてないのでしょうか。

『鬼滅の刃』は数えきれないほどのグッズが出ています。現在、人気の『呪術廻戦』も公式WEBサイトには170種を超えるグッズが並んでいます。

また、アニメ作品では声優が登場するイベントをくり返し行っています。それこそコロナ禍前は毎週のように全国のどこかで開催されていました。その中には、DVDやBlu-rayの特典として付いている「優先販売申込券」が用意されていることがありました。アニメファンはこの申込券にて抽選会に挑戦し、当選すればイベントに参加できます。もちろん、落選する場合もあります。どうしても参加したいファンはDVDを複数購入し、当選の確率を高めることになります。あざといことこの上ない。

そのほかにも、ランダムで購入する缶バッジ、カード、そして、パチンコ、パチスロ、ソシャゲーなど数え上げたらキリがありません。

商売っ気マル出しのアニメビジネスを揶揄する声は少数です。ファンは好きな作品のグッズには金に糸目を付けません。私が「やりすぎない」「あざといことはしない」という言葉を、呪い、というわけがお分かりでしょうか。

■アニメファンを取り巻くのは過剰ともいえる贅沢な環境

地域が行うアニメ施策には、呪いの言葉がかけられる一方で、アニメ会社が行う施策は歓迎されます。アニメ会社に「やりすぎない」「あざといことはしない」などという呪いはかけられません。

この違いはどこから生まれるのでしょうか。

アニメファンは絵が好きです。アニメは絵の集まりです。動画マンが描いた線画に、仕上げ担当者がデジタルペイントで色をつけ、撮影がエフェクトを加えつつ合成する。1コマ1コマは静止した絵。その絵が数千枚集まって、1話30分のアニメのエピソードが完成します。

絵が好き、と書きましたが、もうひと言を付け加えます。アニメファンは新しい絵が好きなのです。

アニメ作品は毎週新作が放送されます。つまり、毎週、好きなアニメの新しい絵を数千枚も見ることができる。アニメ施策を行った地域の担当者なら、イラスト1枚を描き下ろしてもらうのに、それなりのスケジュールとまとまった金額が必要なことをご存知でしょう。それが、数千枚もある。アニメファンはテレビを付けるだけでその物量を目にすることができるのです(もしくは配信サービスに加入するだけで)。過剰ともいえる贅沢を享受しているのが、アニメファンです。

アニメ会社が行うアニメビジネスとは、贅沢の沼にどっぷりと浸かったアニメファンを、さらに満足させようというものです。そのために作られるのが、誰も見たことがないビジュアルです。描き下ろしイラストであったり、新作フィギュアであったり、声優のステージイベントであったり。原作マンガに特典DVDとして付けられた新作エピソードも、もちろんそのひとつ。

地域のアニメ施策の担当者は、アニメ製作委員会から地域から使用可能なイラスト素材を受け取るでしょう。それは「キービジュアル」や「キャラクター設定画」ではありませんか? なぜ、アニメ製作委員会が気前よく、データを送ってくれるのでしょうか。

キービジュアル、キャラクター設定画にはすでに商品価値がないと判断したからです。アニメ作品のプロジェクトが始まってから何度も使用した素材であり、アニメファンには見慣れたビジュアルなのです。つまり、出涸らしです。

出涸らしを使うことは、目の肥えたアニメファンからすれば手を抜いていると見えます。出涸らしで作られたグッズを「安易」と受け止めます。そして、「やりすぎない」「あざといことはしない」という言葉が発せられるのです。

■呪いを解くのは「まさか⁉︎」

最後に、呪いを解く方法をお話ししましょう。

呪われる原因は、地域が行うアニメ施策のクオリティが低いためと説明しました。それではどうするか。

アニメファンが驚く圧倒的なクオリティを目指すしかありません。

描き下ろしイラストはそのひとつ。

そこに地域ならではの要素を加えるのです。伝統的な何かもいいでしょう。伝統ある工芸品とアニメの描き下ろしイラストを組み合わせてください。名産品もいい。全国的に知られている地酒やお土産とアニメを組み合わせる。名が通った企業や飲食店も可能性があります。「まさか、あの企業とこのアニメ作品がコラボするとは⁉︎」と驚きを生みます。

ご自分の地域をとことん調べてください。そして、誰も見たことがないビジュアルを世に送り出してください。

「やりすぎない」「あざといことはしない」という呪いの言葉は、アニメファンが「まさか、そんなところと⁉︎」と驚くことによって力を弱めます。その驚きが大きければ大きいほど、呪いは弱体化し、気付くと消え失せているのです。

体裁のいい言い訳を口にして後ろ向きな態度より、ぜひ前のめりに新しいビジュアルを求めましょう。アニメファンは面白いことが好きで、常にアンテナを張っている人たちです。「まさか⁉︎」「まさか⁉︎」と驚かせ続けてください。刺激的な施策を打てば打つほど、ビビットに応えてくれるのが、アニメファンなのです。