1地域1アニメに縛られないアニメ地域おこしを

地域
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■地域のふしぎな共通点

アニメ聖地巡礼で盛り上がる地域には、ふしぎな共通点があります。

ひとつの地域に、ひとつの作品。久喜市鷲宮の『らき☆すた』、茨城県大洗町の『ガールズ&パンツァー』などの例を出すまでもないでしょう。特に大ヒットした作品の舞台になったところほど、その傾向が強く出ます。作品の制作者によってロケ地に選ばれたら、地域はずっとその作品と添い遂げなくてはいけないような決まりがあるかのようです。

1地域1アニメの良し悪しは一概には言えません。

地域の自治体、商店街がひとつの作品に集中することで、ファンにとってはわかりやすくなります。地域と、権利を持つ企業やクリエイターとの信頼関係も醸成されるでしょう。何より面倒な権利処理の先がひとつになるので、作業がシンプルになります。

一方で、1地域1アニメのアニメ地域おこしの趨勢はそのただひとつの作品の権利を持つ企業とクリエイター次第になります。まず、作品の人気に左右されます。作品そのものに勢いがなければ、アニメ地域おこしは萎んでいくでしょう。さらに地域で行われるご当地アニメイベント、ご当地アニメグッズの展開はひとつの作品の企業次第となります。担当するプロデューサーが忙しい、描き下ろしをお願いしたアニメーターさんが他の仕事で手一杯。よくあることです。うまくいくかどうかは相手次第。

1地域1アニメは、権利もとのひとつの企業におんぶに抱っこになってしまう。つまり、アニメ地域おこしの主導権は、地域ではなく、アニメ作品の権利を持つ企業、クリエイター次第となるのです。

■大丈夫、嫌われません

地域の担当者から聞こえるのが、「他の作品に手を出したら、最初に地域を聖地にしてくれたアニメ会社やクリエイターに嫌われるのではないか」という声です。

大丈夫です。嫌われません。

むしろ喜ばれます。

嫌われない理由は簡単です。アニメ会社やクリエイターは、地域の情景を背景素材として拝借しただけです。予算、人員ともにアニメ地域おこしの準備をしてから、アニメ制作に臨んでいるわけではありません。そもそも、アニメ地域おこしは視野に入っていない。アニメ会社からすれば、背景素材としての活用以外に望むとすれば、作品のプロモーションにつながること、ファンとの交流の場になること、そして、できれば物販の場として活用できればいいな、くらいでしょう。そうした活動が阻害されないのであれば、地域が他にどんなプロジェクトを動かしていたとしても嫌う理由にはなりません。

次に、私が喜ばれると書いた理由をお話しします。これも簡単です。地域が注目されて人が集まれば集まるほど、そのアニメ会社にとってみれば、自社作品のプロモーションにつながるからです。たとえ、ライバル社の作品であっても、いやむしろ、ライバル社の作品ほど、そちらのお客に自社作品を認知してもらうきっかけになり、チャンスとなります。

ファンの熱気が高まることが、アニメ会社やクリエイターが望むことです。

地域に複数の作品、クリエイター、会社が集まることは、そうした熱気が生まれやすくなる。むしろ、喜ばれると私が書いたわけがお分かりでしょうか。

■複数のラインを持つことで、アニメ地域おこしを安定させる

作品、クリエイター、アニメ会社には波があります。発表スケジュール、人気の隆盛など、盛衰は世の常です。

地域は作品が一段落したらあっさりと切り捨てるのではなく、巻き返すときを待ってほしいと思います。熱い気持ちをもったクリエイターとファンがいる限りは作品が盛り返す機会はいずれ訪れる。そう思って待つのです。

とはいえ、ただ待つだけでは芸がありません。その間に他のアニメ作品とも連携します。

アニメファンはひとつの作品だけを好きなのでしょうか。『らき☆すた』ファンは『らき☆すた』だけをずっと見ている、そんなことはありません。『機動戦士ガンダム』が好きな『らき☆すた』ファンは多いだろうし、『天気の子』が好きな『らき☆すた』ファンもいるでしょう。最近なら『呪術廻戦』や『Yasuke -ヤスケ-』を面白いと思っている人もかなりいるはずです。他の作品を展開することで、興味を持つファンは必ずいます。

出版社やアニメ会社は複数のラインを持つことで、業績を安定させます。ひとつのヒット作だけに頼るのではなく、時流にあった作品を複数展開し、向上を目指します。

アニメ地域おこしも考えは同じです。地域で展開する作品は、常に複数コンテンツを同時進行させ、活動を継続、安定させる。つまり、アニメ地域おこしとはコンテンツビジネスを地域に根付かせる行為ともいえます。

地域はアニメの聖地となることで出版社やアニメ会社と繋がりが生まれたことでしょう。ぜひ、出版社やアニメ会社が何をしているのか、どういった活動をしているのかを調べてください。活動のヒントがたくさん見つかることをお約束します。(編集者やプロデューサーに話を聞けば、皆、快く応えてくれるでしょう)

■地域側から仕掛けるアニメ地域おこし

地域でアニメ作品を同時に展開するとして、どんな作品がいいのでしょうか。

私はアニメ地域おこしとは、その地域に関わるそれぞれの人が、それぞれに好きな作品で地域を盛り上げることが第一だと思っています。地域に関わる人の数だけ、好みがある。そこで、ご自分の興味がある作品でアニメ地域おこしを考えることをオススメします。

私は自治体主催のアニメイベントの総合プロデューサーとなったとき、基調講演を企画しました。登壇者をアニメや漫画の関係者から選ばなくてはいけません。さあ、どんな人にご講演をいただいたらいいのだろうか。

その時に考えたのは、自治体の首長(トップ)の年齢です。首長が12歳の頃に流行した漫画やアニメ、映画をまとめることから始めたのです。「12歳の時に好きだった作品は、その後、一生好きになる」とは有名アニメ監督の言葉です。その言葉に従い、首長が12歳の時に流行った作品のクリエイターを候補にあげて企画を進めました。

ありがたいことに、とても大御所の作家さんにお越しいただき、基調講演は大いに盛り上がりました。首長は予定があったために会場を見ることは叶いませんでした。が、自治体の担当職員に「なんとかして参加したい」と何度も問い合わせたそうです。担当職員は嬉しそうに私にそう報告にきました。

当時60代だった首長にとって、アニメイベント企画はさほど興味を掻き立てるものではなかったはずです。最新のアニメが会場を彩り、人気のアニソンシンガーやアイドル声優が来て、ファンが押し寄せる。自治体主催のイベントが盛り上がって喜ばしいと思っても、ご自身が興味を持つことはないでしょう。どこまでも他人ごとです。

しかし、そこへ自分が好きだった作品を作ったクリエイターがやってくる。憧れの対象が現れるのです。思わず童心に帰ってしまう。急に自分ごとです。アニメイベントを見る目が変わるのです。

その後、アニメイベントは皆の支援のもと、おかげさまで今に至るまで続いています。

アニメ地域おこしの妙はここにあります。地域の住人、関係者がそれぞれの「好き」「興味」を持ち寄る。憧れの作品やクリエイターと一緒に仕事をすることで、自分ごととしてアニメ地域おこしを捉えるのです。

自分の好き嫌いで仕事をする。そのことに拒否感を覚える人は多くいます。多くの仕事は、好みよりも勤勉さを重んじます。そのほうが効率がいいし、合理的だと思えました。

アニメをはじめとする娯楽産業は違います。一番大事なことは、好きか、嫌いか。興味を持つか、否か。熱中させられるか、テンションを上げられるか。感情を問われます。感情によってお金が動くのです。

地域には多種多様な人がいます。昔から住んでいる方がいれば、新しく転入してきた方もいるでしょう。学校に通っている人、職場がある人、お店を営業している人もいれば、職探しをしている方もいる。性別、年齢、国籍、出身地。バラバラです。

いくら人気アニメ作品が地域に来たとしても、興味がなかったり、苦手だったりしたら、どこまでも他人ごとです。ひとつの作品に地域の皆さんが両手をあげてウエルカムと言うわけにはいきません。統一見解などあるはずがない。興味のない作品で活動をすることほど、苦痛なものはありません。(アニメ誌編集者の場合、興味のない作品を担当することがあります。その時には、自分が興味を持ちそうなところを見つけて、そこをフックにして作業をします。私は「好きになる技術」と呼んでいます)

ぜひ好きな作品によるアニメ地域おこしを考えてみてください。

肝心なことは、2つだけ。作品の権利を持っている企業がOKすること。そのファンが納得し地域を訪れてくれること。これで、アニメ地域おこしは成立します。

1地域1アニメは思い込みです。地域はそうした思い込みに従う必要はありません。地域をアニメの舞台にしてくれたからといって、そのアニメ作品に殉じる必要もありません。

地域は複数のアニメ作品をはじめとした多くのコンテンツと取り組んでもいいし、地域から仕掛けてもいいのです。地域が盛り上がって、喜ぶクリエイターやアニメ会社はいても、嫌いになったりするような人はいません。