自治体職員に伝えたい、アニメ地域おこしにおける「コスプレ」

アニメビジネス 地域
撮影 柿崎俊道

お金はないけど何かしたい地域の方へ

「アニメで地域活性化」のご相談を僕はよくいただきます。お相手は主に自治体の方。僕が手がけた「アニ玉祭」のようなアニメイベント企画をしてほしいというご要望をはじめとして、即売会やロケ地誘致など、さまざまなお話が寄せられます。

ただ、ほぼほぼ共通しているのは「お金がないこと」。予算を組んでいないし、お金を出す気もないけど、「若い人を集客できそうな施策を打ってほしい」「『ガルパン』の大洗町や「らき☆すた』よ鷲宮のようにしてほしい」というご依頼です。

その虫の良さ、太々しさについては話すと長くなるので今回は触れません。

「お金がないけど、何かしたい!」というのは、全国の地域共通の課題でしょう。次に解決案をひとつお話しします。(ついでに「さほど労力をかけたくない。だけど成果は出したい!」という気持ちも担当者には見え隠れしているので、これもオマケで盛り込みます)

オススメは「コスプレイベント」と「写真展」

「お金がないけど、何かしたい!」「さほど労力をかけたくない。だけど成果は出したい!」

アニメ地域おこしにおいて、この調子の良い要望を解決するひとつの方法が「コスプレイベント」と「写真展」です。

コスプレイベント

コスプレとはアニメやマンガ、小説、映画といったコンテンツのファンがキャラクターに扮することです。キャラクターの衣装を着た人々はコスプレイヤーと呼ばれることがあります。また、自らそう名乗ることもあります。そうしたコスプレイヤーが集まって撮影をしたり、お話をしたりするのがコスプレイベントです。

僕がコスプレイベントをオススメする理由は「わかりやすさ」と「メディア受け」です。ふだん見かけない衣装を着た男女が地元の公園や古民家、駐車場に何十名も集まればとても目立ちます。アニメに詳しくない方が見ても「何かやってるなあ」と気づきます。

そして、「メディア受け」。イベント情報は地元の新聞社やテレビ局に事前に伝えましょう。当日は集合写真の撮影タイムなどを用意します。メディアが欲しい素材が手に入るよう、参加者の皆さんにご協力いただきながら当日のプログラムを組むのです。圏外の方にはあまり知られていない地元のスポットにコスプレイヤーや集まる写真にはニュース性があります。高い確率で記事になるでしょう。

写真展

撮影したコスプレ写真を展示します。地域の市役所や市民ホールなどで写真展を開催するといいでしょう。コスプレイベントは、衣装を着た人間だけでは成立しません。コスプレイヤーを撮影するカメラマンがいます。イベント会場は彼らの作品づくりの場でもあります。そうして撮影されたコスプレ写真はSNSで公開したり、自主制作の写真集に掲載したりといった使われ方をします。

僕は「ご当地コスプレ写真展」という企画をKITTEと渋谷フクラスで開催しました。KITTEは東京駅から地下で繋がった商業施設。渋谷フクラスは渋谷駅からベデストリアンデッキで繋がった商業施設です。どちらも一般の方が多く来訪します。そうした開放的なスペースで地域で撮影したコスプレ写真を展示しませんか? と投げかけましたら、多くのコスプレイヤー、カメラマンにご協力をいただくことができました。「せっかく撮影したコスプレ写真だから、人前に出せる機会がもらって嬉しい」という声があり、考えさせられました。

展示する機会がほしい・・・。せっかく撮影した写真。コスプレイヤーとカメラマンの作品です。広く観てほしいと考えるのは自然なことです。

また、地域のロケーションを背景にしたコスプレ写真は、いわばコスプレイヤー向けの撮影スポットガイドです。地域の人間が良いと思っている場所と、コスプレイヤーとカメラマンが良いと思った場所は得てして違うもの。写真展は地元の人間が気づかない写真栄えするスポットを教えてくれます。

コスプレイベントの本質

コスプレイベントの本質は「ファン同士の交流会」である、ということです。

コスプレイヤーは自身が好きな作品、キャラクターの衣装を用意して、イベントに参加します。あるコンテンツの衣装を着ていることは、その人がどんな作品が好きなのか、というメッセージです。撮影するカメラマンも同様です。コスプレイヤーのファンであることもあるし、作品やキャラクターが好きな人もいるでしょう。どちらにしても、「好き」という気持ちが根幹にあります。コスプレイベントとは、何かを好きな人が主催し、何かを好きな人が衣装を着て、何かを好きな人が撮影するイベントです。つまり、会場に集うのはコンテンツの文脈を理解した同好の士のみ。純度が増すほど、会場全体の空気は濃くなります。

わかっていない人間がいたらどうでしょうか。会場の空気に水を差すことは、想像に難くないはずです。

職員自ら、観光課全員が、役所をあげて同人文化に浸かる

ここからが本番です。

自治体の観光課や観光協会のコスプレイベント担当者はたくさんのコスプレイヤーにきてほしい、と思うでしょう。それでは、どうしましょうか。民間業者に連絡し、集客、運営を任せては、と今、考えませんでしたか? 同時に、予算を用意していないから民間業者にボランタリー精神を期待したいなー、とか虫のいい考えが頭をよぎりませんでしたか? コスプレモデル事務所やコスプレスタジオといった専門の民間業者はあります。十分な予算を用意していれば、うまくいきます。彼らはプロであり、また、ファン心も理解しているから安心して任せられるでしょう。

お金のない場合は?

お金がない場合は、自治体職員が自らコスプレをすればいいのです。観光課の同僚はもちろん、家族や友人も巻き込んでコスプレし、イベントを開催しましょう。20、30人が集まれば、立派なコスプレイベントです。小さくても、メディア対策は忘れずに行ってください。地元の新聞社、テレビ局、ラジオ局はもちろん、地域内の広報物にも情報を掲載しましょう。

お金をかけずに話題を作り、そして、民間業者を圧迫することもない。こうした無理のない形なら、2回、3回と続けられます。続けることで、近隣のコスプレイヤー、カメラマンが気付き「面白そうだ」と自主的に参加しはじめます。(アニメ、マンガ好きは面白いことが大好きです。面白センサーは常に動いているので、すぐにキャッチしてくれます)

好きな人が好きなことをする。面白さはそこに生まれます。自分の地域が舞台になったアニメ作品があるからといって、その作品に準じることはありません。あくまで自分が好きな作品にこだわりましょう。アニメやマンガでなくてもいい。映画や小説でもいいし、北海道洞爺湖で開催されたマンガ・アニメイベントでは麦焼酎パック「いいちこ」のコスプレをした猛者がいました。猛者を前に、僕は「宝焼酎ピュアパック25のコスプレをしたい・・・」と密かに思いました。

「好き」は伝染するのです。「好き」という気持ちから生まれたクリエイティブは、次の人に伝染り、新たなクリエイティブを生む。アニメやマンガが好きな人たちは、それを「同人文化」と長らく呼んできました。

同人文化の入り口はいくつもありますが、コスプレは比較的、敷居の低い入り口です。敷居を跨ぐのに、お金は必要ありません。必要なのは好きという気持ちと覚悟だけ。

まずはここから入ってみてください。